周防正行監督最新作。最近は社会派な重いテーマを扱って来た周防監督が、舞妓を目指す少女と彼女を取り巻く花街(かがい)の人々の姿を描いたシンデレラストーリーをミュージカル映画に。
主人公の春子を初々しく演じるのは、16歳の上白石萌音(かみしらいしもえ)。春子に京言葉を教える大学教授京野法嗣に長谷川博巳。春子が世話になる置屋の女将役に富司純子。先輩舞妓の百春に田畑智子、他にも渡辺えり、草刈民代、竹中直人など周防組の役者が脇を固めます。
あらすじ
京都の下八軒(しもはちけん)は古い歴史のある花街。現在、下八軒の舞妓はもうすぐ30歳になる百春(ももはる)ただ一人で舞妓不足が深刻化していた。
そんなある日、百春が籍を置く置屋に、鹿児島弁と津軽弁を話す一人の少女、春子がやってきます。百春がPRの為に始めたブログを読み、舞妓を志望して百春を訪ねて来たのでした。
ですが、誰の紹介でもなく身元も分からない少女を置屋で預かることができる訳もなく、追い返されてしまいます。常連客の北野も、強烈な方言と訛りの春子には舞妓は無理だと言います。それを聴いた言語学教授の京野は、北野と一つの賭けをします。
それは、京野が春子に京言葉を教育して一人前の舞妓に育てた暁には、京野の今後一切の花街でのお茶屋遊びの面倒を見るというものでした。
京野のおかげで、百春と同じ置屋で面倒を見てもらえることになった春子。掃除や先輩舞妓のお世話、舞踊の稽古、訛りと方言を矯正するための京言葉の勉強と、舞妓になるための修行に励みます。
ですが、言葉の壁や厳しい芸事の稽古に悪戦苦闘するのでした。
感想
主人公の春子が初めて置屋を訪ねた際にいきなり歌い出したのは驚きました。面接を受けている様なシーンだったので、歌声をアピールする為に歌い出したのかと思い、この映画がミュージカル映画だと言うことを理解するのにしばらくかかりました。
と同時にタイトルの「舞妓はレディ」が「マイ・フェア・レディ」をもじったタイトルであること、物語も「マイ・フェア・レディ」だと言うことに気がつきました(遅いw)。
前半は京都や花街の文化を紹介しながら、ミュージカルシーンを交えてコミカルに。後半は春子の苦悩と成長に沿って物語は展開します。途中までは必要性をあまり感じない微妙なミュージカル演出でしたが、全ては最後のシーンを見せる為の準備かとも思えるほどのカタルシスがありました。
主に舞妓独特の京言葉に苦労する主人公が描かれていて、春子が芸事に悩むシーンは見せながらも、血の滲むような努力をしてるシーンを描くことはありません。それはあたかも、白鳥が水面下で足を必死に動かす様子を見せない様に。それはやはり、花街は夢を見せる場所だからでしょう。
あるシーンで春子が幼い頃に事故でなくなった母親がその昔、京都で舞妓をしていたことが明らかになります。それが物語に一本の軸を通していて、良いアクセントとなっています。
レビュー
この映画は春子へ感情移入しながら観ると、100%楽しめると思います。踊りのお師匠さんに「これからもお気張りやす」と初めて褒められた時にはガッツポーズしそうになりましたし、店出しという舞妓さんがお茶屋デビューする宴席で春子が初めての舞を踊り終わった瞬間は、思わず拍手したくなりました。堪えましたけど。
外様には冷たいと言われがちな県民性の京都の人々ですが、春子の素性が明らかになるシーンでは、花街の人々の家族や仲間への情の熱さがよく描かれていて、涙が溢れてくるのを抑えられませんでした。京都の「粋」が描かれています。
花街の一見さんお断りの文化の理由や、舞妓と芸妓の成り立ち、舞のお師匠さんの言葉から分かる芸事の厳しさなど、彼女達がプロである事を改めて教えられます。
★★★★(4.0)