浅田次郎原作の短編集「五郎治殿御始末」の一遍「柘榴坂の仇討」を中井貴一、阿部寛主演で映画化。監督は『沈まぬ太陽』『ホワイトアウト』の若松節朗。音楽は久石譲。主人公、志村金吾の妻セツ役に広末涼子、大老井伊直弼役に中村吉右衛門。激変の時代に生きた二人の「士(さむらい)」の生き様と運命を描く時代劇。
あらすじ
彦根藩の武士、志村金吾はその剣術を認められ、藩主井伊直弼の近習(警護役)へと取り立てられる。金吾は主君の人柄に触れ、自分の命に代えても守ると誓いを立てる。妻セツをめとり、家督を継いだ金吾。だが、安政7年3月3日、雪の降り積もるなか江戸城へと途上する総勢60名の一行が桜田門へと差しか掛かった時、一人の浪士が直訴状を持って隊列の進行を止める。
直弼に訴状を受け取るように命じられた金吾が隊列の先頭へと歩を進めた一瞬、浪士が刀を抜き切り掛かった。それを合図に直弼の駕篭を囲むように大勢の浪士に襲撃されてしまう。
雪のため、合羽を身にまとい刀に袋を被せていた護衛の彦根藩士達はなす術無く倒れて行った。金吾は将軍より賜った槍を持ち去った一人の浪士を追って隊列を離れてしまい、その間に直弼の駕篭を四方から刺し貫かれる。
桜田門外の変と呼ばれたその事件は、幕政の是正を願った尊王攘夷急進派の水戸藩士達であった。主君を守れなかった金吾は本来であれば、打ち首の刑に処されるところであったが、金吾の大罪を背負い自害した両親に免じて計を取り下げられる。その代わりに事件に関わった水戸浪士達を討ち、その首を主君の墓に供えろとの命を受ける。
敬愛する主君を守りきれず、切腹も許されない金吾の仇討ちのみを願う過酷な13年間が始まるのであった。
感想
廃藩置県によって武士の時代は終わり、拠り所をなくしてしまった金吾の過酷な13年。命を掛けた大老暗殺の際、期せずして生き延びてしまった水戸浪士、十兵衛の孤独な13年。激しく移り変わる幕末から明治の時代を不器用に生き抜いた二人の男を中心に描かれた運命のドラマが、ずしりと重く胸に入ってきます。
見所は仇討ち禁止令が発布された雪の夜、13年を経て出会う運命の二人の対決シーン。といっても剣を交えるシーンではなく、金吾と十兵衛の二人が13年間をどのように生きてきたのかを静かに語らいます。まるで言葉の刃を交えるように。殺陣のシーンよりも緊張感のあるシーンでした。そして本物の殺陣の方は刀をただ振り回しているだけではない重みのあるものでした。
レビュー
中井貴一は安定感ありますね。台詞が無い、「間」の演技も素晴らしいです。阿部寛は元々、演技の幅が広い役者ですが、今回はさらに新しい引き出しを見せられた感じでした。金吾を深い愛で支える妻のセツを演じる広末涼子はこういうの役は安定感があります。ただ、もう少し年上の落ち着いた女優でも良かったかも。
激動の時代に生きた士の壮絶な人生と宿命を描いた大人の重厚なドラマが観たい方にはおすすめです。映画館にも年配のご夫婦が多かったです。ただ、物語の結末は予想できる範囲に収まっていまので、涙を流すほどの感動は僕はありませんでした。
★★★(3.0)