アメリカン・スナイパー

伝説の狙撃手と謳われた一人のアメリカ兵の戦争体験を描いた作品。イラク戦争に4度従軍したクリス・カイルのベストセラー自伝をクリント・イーストウッド監督がブラッドリー・クーパー主演で映画化。

あらすじ

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クリス・カイルはイラクの戦場にいた。一人の男が携帯電話を片手に建物の屋上で話す姿をスコープで捉えている。その建物までアメリカ軍の部隊が数百メートル先まで近づいているため、どんな状況も見逃せない緊張感がクリスを包む。

屋上の男は電話を終えると建物の中干支消える。代わりに女性とまだ幼い少年が同じ建物の一階から出てくる。女性の手には対戦車手榴弾が握られていいる。クリスは部隊長に無線で報告するが、部隊からは二人の姿は目視できないため、クリスに判断が委ねられる。

女性が手榴弾を少年に渡すのを確認したクリスは、ライフルの引き金に賭けた人差し指に力を入れる…。

適さ羽州に生まれ育ったクリスは少年時代、厳格な父親と共に狩りをしていた。初めて鹿を射止めた際に、ライフルを置いて獲物に近づいた事を父親に叱られる。ある日、弟のジェフを苛めた上級生に仕返しをしたクリス。父親はそんなクリスに人間には「弱い羊」と「羊を狩る狼」と、「羊を守る犬」がいると教わる。そしてお前は犬になれと言われる。

1998年、カウボーイとなったクリスは弟のジェフと各地を巡っていたある日、アル・カイーダのテロによってアメリカ大使館が爆破されたニュースをテレビのニュースで知り、国を守る「犬」になるべく、ネイビー・シールズの入隊を決意するのだった。

感想

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クリント・イーストウッドの映画はある意味直接的な演出が多い。そしてそこに打算を感じないので、見るものの感情に直接触れてきます。

ノンフィクションが原作の本作ですが「伝説」の狙撃手が「スーパーマン」ではなく、PTSDを抱えた一人の兵士として、真実を描いた映画でありながら、エンターテインメント性も残してあります。

また、善悪を語る作品ではなく、原因と結果、終わらない連鎖という様なワードが浮かんで来ます。リアルな戦争の音の中に強い緊張感の連続。戦地から帰国しても気が休まることのない主人公同じく、観る方もなかなか疲れる映画でした。

主人公のクリスは国を守りたいと思う心と子供や奥さんと一生懸命向き合おうとする心を両方持っています。そんなクリスは戦地と家族との平和な時間を交互に繰り返す中で、次第に心を病んでいきます。戦争が生み出す悲劇は「死」だけではなく、その家族が抱える闇の部分についても描写されています。

兵士のPTSDについてはよく耳にしますが、家族側に目を向けた作品はあまり記憶がありません。ただ、クリスは戦争や狙撃で人を殺してしまう事について「正義」の元に行っていたことを、主人公は微塵も疑っておらず、自身のPTSDに対しては自覚のないままで、立ち直るくだりもあっさりと描かれてます。「(戦争は)クソだ」と言い残して退役したクリスの弟ジェフとの対比が印象的でした。

クライマックスの長距離スナイプのシーンに英雄視が見え隠れします。その狙撃シーンだけ、リアリティに欠けてしまったのが残念でした。

まとめ

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映画を離れて身の回りについて考える機会を与えてくれる映画です。日本人のほとんどが戦争というと第二次世界大戦を思い起こすと思いますが、今も各地で戦争が行われていることを感じる映画でもあります。

この映画は反戦映画ではありません。一人一人が観て考える映画です。その分、国民性によって、大きく感じ方が変わりそうな映画です。監督が作品込めたメッセージ性みたいなものもあまり感じませんが、エンドロールが音楽のない無音であるところに、それぞれがこの映画を反芻する時間として設けられているのだろうと思います。

★★★☆(★3.5)

『アメリカン・スナイパー』公式サイト

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監督クリント・イーストウッド
出演ブラッドリー・クーパー
シエナ・ミラー
上映時間132分
エンドロールおまけ映像なし